四季の窓辺4


2024年9月

クロイツの窓辺

高原はすっかり秋になりました。
木々が葉を落とし始めたからでしょうか。
鳥たちの姿が目立つようになりました。
 *
母鳥にくっついて
羽根をばたつかせては
餌をねだるイカル
頭の黒い毛がまだ生え揃っていなくて
眼鏡をかけているみたいに見えます。
きゅんとするかわいさ
 *
イカルはむっちりとした身体に
大きな黄色い嘴、
どちらかといえばブサカワ系ですが
見かけによらず美声です。
 *
よく響く声で
キコキコキーとか
ヒーホーヒーとか
イカルコキーとか。
シジュウカラがいろんな言葉を持っていることは

よく知られていますが、イカルもいろんな歌を聞かせてくれます。 



2024年6月

クロイツの窓辺

窓の外に広がる木立に交じって

大きなミズキの木がある。

今朝、ふと見ると

階段状に並んでいる白い花の周りを

何かが飛んでいる。

アサギマダラだ。
ああ、もうそんな季節がやってきたのだ。

 *

山麓に住むまでは、

10月下旬、

都会の植物園に渡ってきたとき、

幸運に恵まれた時にしか、

見ることができなかった

アサギマダラ。

でも、この辺りでは

初夏から秋までふわりふわりと

優雅に舞う姿を見かける。

 *
冬の間は見えていた南アルプスが

生い茂る木々にすっかり隠れてしまった。
滴るような緑のしずくを浴びながら

巡る季節を楽しんでいる。 



2024年4月

クロイツの窓辺

春を待つうちに風邪を引いた
家に籠っている間に

巷は春になった。
サクラどころか、もう新緑の季節が来ている。

それでもまだ目覚めない山の春。

4月半ば、セリバオウレンに代わって

やっとカタクリが咲き出した。
ミズバショウがあちこちから顔を出し

ハルニレの花も今が盛り。

我が家の窓辺の山桜もちらほら、
ほどけるように華やいできた。

カラマツの枝々は青らみ

霞みだつような芽吹きにうっとりする

長い春を楽しむ。

山裾を巡る道は、どこまでも早春

山を背に、里へ下りると初夏

ほんの少し動くだけで

季節を行ったり来たり

なんという贅沢!

 



2024年3月

クロイツの窓辺

春めいたと思っていたら
雪が降り続き

いつになく

木々が華やいでいると

見えたのは雨氷だった。
 *

そのまま3月が来て

フキノトウが顔を出しようにも

大地は今も雪に覆われている。

 *

待つ

春を待つ

ゆったりと待つ。

木の芽と

鳥たちと

いっしょに

待つことを楽しんで

春を待つ。

こんな3月もある。



2024年2月

クロイツの窓辺

この辺りでは

真っ先に

春を告げるダンコウバイの

蕾が膨らみ始めた。
長く雪で覆われていた

大地も少しずつ広がって

あとひと月もすれば

そこここに

可憐な山野草の

花が咲き始める、

はず。

 *

キーンと冬の青空に

響いていた音が遠ざかり

いつしか峰々が霞みだす。

 *

姿は見えないけれど

どこかの梢で鳥がさえずっている。

ああ、冬が逝ってしまう。

うれしいような

淋しいような



2024年1月

クロイツの窓辺

年の初めは、

たとえ、いろいろあったとしても

ひとまず気分があらたまり

夢とか抱負とか、希望といった言葉を

口にしてみたくなるものだけれど。

 *

あまりに過酷な幕開けを

どう捉えていいのか、

言葉を失います。

けれど

朝が来て、

日が昇り、日が沈む

太陽や月、星々は変わらず空を巡っている。

それを見ると

やっぱり、試されているのだ

どんな時にも明日を信頼することを。

 *

この黄色い花は
希望を失いかけたときの助け手

ゴース(ハリエニシダ)

 



2023年12月

クロイツの窓辺

八ヶ岳自然文化園で

月に1度、定点観察会をしている。

ひとりでは、続かない意志の弱さを

仲間がいると、補ってもらえて

長続きするのは本当にありがたい。

ハードルをあまりあげず、

ゆるやかに、でも決して切らさず

細く長く続けていこう。

  *

冬、多くの木々が葉を落とすと

目立ってくるのが、ガンの治療薬として

知られているヤドリギだ。

  *

白っぽい実をつけるセイヨウヤドリギには

お目にかかったことはないけれど、

その亜種の緑黄色の実をつけるヤドリギに加え

橙赤色の実のアカミヤドリギなど

種類の違うヤドリギが、1本の木に

寄生していたりする。

また、落葉するヤドリギ(ホザキヤドリギ)は

実だけが残るので、遠くから見ると

黄色い花が固まって咲いているようにみえる。

  *

この辺りはヤドリギの宝庫、

あまりにヤドリギだらけなので

私たちはまるやち湖から続くこの道を

愛情をこめてヤドリギロードと呼んでいる

 



2023年11月

クロイツの窓辺

八ヶ岳の落葉は

カラマツに始まり、カラマツに終わる。

9月にもなれば、はやばやと

カラマツは金の針のような雨を降らし始める。

そのうちに、ヤマザクラやダンコウバイ

ナナカマドやシラカバも

一瞬華やかに、そしてやがて落葉する。

ヤマモミジの紅葉はゆっくりだ。

11月に入った頃

あたりは燃えんばかり。

ナラはしぶとい

枯葉はなかなか落葉しない。
 *

雪便りが届き始めても

カラマツの落葉はまだ続く。

車に屋根に、そして人の肩にも降り積もる。

 *

道路が落葉で埋まっても

誰も文句を言わない。
これがなかなかうれしい。

踏むといい音がするよ。

2023年10月

クロイツの窓辺

いつもなら、この辺りでは
初夏の頃になると
アサギマダラが
ふ~わり~ふわりと
優雅に舞う姿が見られるのだけれど
この夏は、暑すぎたのか
全く見かけず
いったいどこへ?
 *
けれど
やっと最近、
フジバカマやアザミの
まわりで飛んでいる姿が
見られるようになりました。
 *
午後の日差しを浴びて
前翅の浅黄色、
後翅はひときわ鮮やかなオレンジ色に。
ためつすがめつ、うっとり。


2023年9月

クロイツの窓辺

久しぶりにブラックアイドスーザン
(黒い瞳のスーザン)に出会いました。
キク科オオハンゴウソウ属
ルドベキアとも呼ばれています。
オオハンゴウソウは、
今では特定外来生物に指定されて
ちょっと邪魔者扱いですが…。
 *
初めてこの花を意識したのは
北アメリカ、シェアラネバダの山中でした。
鮮やかな黄色の舌状花に囲まれて
中心の黒っぽい頭状花、
黄色く見えるのは頭状花の雄蕊です。
ある朝、そっと手を添えたとたん
みるみる花粉の黄色がぐるりと輪を描きました。
まるで私の何かと呼応するかのように。
 *
「おや、スーザン、目を覚ましたの?」
思わず私はそうつぶやきましたが
その時、私の内なる影に
光が当てられた気分になったものです。


2023年8月

クロイツの窓辺

高原では秋の気配が漂い始めました。
窓辺につるしたリュースターに日が差し
部屋のあちこちに虹を作るようになると
もう夏は終わりです。
 *
久しぶりに八ヶ岳の文化園に行くと
木漏れ日の中で
そこだけスポットライトを当てたみたいに
レンゲショウマが咲いていました。
あまりの可愛さにしばし見とれ
上から下から横からと
眺め尽くしました。
 *
湿地園ではツリフネソウが花盛り、
キンミズヒキやオミナエシ、アサマフウロにユウガギク
夏の終わりと秋のはじめが交じり合い、響きあっています。
足元には、薄桃の小さな花
アキノウナギツカミ
なんで、こんな名前が付いたのかしら?


2023年6月

クロイツの窓辺

3年前の6月
今は我が家となった山荘に出会った。
敷地の入口には大きな青楓が揺れて
一目で心を奪われた。
家との出会いも
恋愛のようなものだ。
  *
訪ねてきた人が
口を揃えて
ずっと前から住んでいたみたいね
という。
  *
私を育み、人生の基盤を作った
生まれ故郷の伊勢、温暖で静謐で
伊勢神宮のありがたさにも無自覚だった。
そして
人生で最も長く、
実りの時を過ごした愛知を経て
今、ここにいることの不思議。


2023年5月

クロイツの窓辺

雨上がりの朝
木々を揺らす風の音
カッコウの声が森に響く。
泣きたくなるような柔らかな緑
二度とないこの瞬間に、アリガトウ
  *
八ケ岳の山懐で迎える3度目の初夏
自然の中に入り込んでいるのは私の方
できるだけ植生を壊さぬよう
邪魔せぬよう
静かに住みたい。
  *
敷地内に自生する植物たちに
まだ十分、挨拶ができていない。
目が慣れていくには時間がかかる。
初めての年に見つけたのは
ヒゲネワチガイソウだった。
エイレンソウ、マイヅルソウ
少しずつ知合いが増えていき
ここが、私の居場所になっていく。


2023年4月

クロイツの窓辺

八ヶ岳自然文化園で、
定点観察を始めて一年、
このたび、ハルニレ(エルム)の
開花をしかと見届けました。
ただし樹高が高く
観察するには遠すぎる。
泣けます。
双眼鏡は必携です。
  *
この木が今、まさに満開だと
誰が分かるでしょうか。
分かる人にしか、分からない。
その優越感(単なる自己満足)に浸りつつ
花の付いた枝が落ちていないかと
うろうろ探す私たち・・・
ああ、一枝ほしい。
  *
地味な花ですが、
花盛りゆえに
おや、ここにもエルムが、と別のエルムも発見!
何ごとも、与えらればかりではなく
自分で掴みとることに喜びがあります。


2023年3月

クロイツの窓辺

春の遅い八ヶ岳山麓でも
今年は早くも枯葉の間から
フキノトウが顔を出しました。
天ぷらにフキ味噌
早春の楽しみが増すこの頃です。
  *
鳥のさえずりに交じって
キツツキのドラミングも聞こえます。
なんとのどかな春の響き
  *
我が家の外壁はキツツキたちの
好みに合っていたようで
コゲラ、アカゲラ、アオゲラと
寄ってきてはドラミング・・・
それゆえ見事なまでに穴だらけ。
思い切って昨夏、
外壁をこげ茶から青灰色に塗り直したところ
ぱったり来なくなりました。大成功。
といっても、目の前のカラマツにはやってきます。
いったい、アカゲラたちの目に
この家はどんなふうに映っているのでしょうか。


2023年2月

クロイツの窓辺

晴れた午後
思い立って御射鹿池までひとっぱしり
雪が残るこの季節に
ここを訪れたのは初めてです。
 *
湯みち街道に入ると
「今日は通行可」の看板が立っている。
ってことは、
不可の日もあるってことね。
ラッキーでした。
連続するヘアピンカーブを上って
標高1530m 
雪かきされた道は苦もなく走れますが
周辺は雪が積もっています。
そして、さすが人気のスポット
県外からの車が並んでます。
 *
あいにくさざ波が立ち
鏡のような、とはいきませんが
この静謐さは冬ならでは。


2023年1月

クロイツの窓辺

八ケ岳山麓で迎える三度目の冬
 *
振り返れば最初の冬は、
引越しの真っ最中に雪が降ることもなく
穏やかで、恵まれていた。
なんでもそうだけれど
あとにならないと分からないことが
たくさんある。
 **
生まれ故郷の伊勢や
大人になってからのほとんどを
過ごした名古屋と比べ
格段に厳しい山の気候だけれど
寒ければ、まず着こむ。
なんというシンプルさ。
***
都会暮らしの時とは大違いの
衣類のバリエーションの少なさが
ちょっと笑えるけど。

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